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【美術展】天空の円空

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円空さんとの出会いは、東京にあるワタリウム美術館 (watarium.co.jp)さんの企画旅行でした。
美術館の方のコーディネートで、岐阜を旅し、美味しいものを食べ、間近で円空仏に触れることが出来ました。

それは、私がそれまで抱いていた「仏様」の概念を覆す、感動と出会いの旅でした。

円空仏の魅力は、なんといってもその造形美にあります。



一見、鉈による荒々しい造形でありながら、とても繊細で、丸太だけでなく、生きている木も、木端すらも、仏様に変えてしまう。

夏目漱石先生の『夢十夜』の「第六夜」に、運慶が仏を彫る様子を見ながら、見物人が「私」に
「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。
あの通りの眉や鼻が木の中に埋うまっているのを、鑿のみと槌つちの力で掘り出すまでだ。
まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」
と言うシーンがあります。

円空仏を見ると、このセリフを思い出します。

「一切衆生悉有仏性」と言いますが、円空さんは、木の持つ「仏性」を、掘り出していたに違いない、と。

あべのハルカス美術館(aham.jp)開館10周年記念のこの展覧会、久方ぶりに円空仏とお会いしたいと、足を運んできました。

※今回の円空展では、何点かの作品が撮影可となっており、使用した写真は、私自身が撮影させて頂いたものです。




【「旅の始まり」】


円空さんが亡くなられて100年ほど経って出された『近世畸人伝』に、立ち木に鉈をふるって仏を彫ったエピソードとともに、円空さんの略歴が記されていますが、本人と同時代の資料にその経歴を裏付けるものはないそうです。

一方で、この「立ち木に彫られた仏像」は実存しています。
それがこちら。

  

木の節が残っているのが、なんとも味わい深く、またそのお顔も、円空仏らしい表情に彫られています。

円空仏の最も古い作は、1663年頃に彫られたものとされており、今回展示されている三重のお寺にある像(1665年前後制作)は、円空さんの初期作品、ということになります。

この展示室にある他の作品は、撮影が許されていませんが、非常に丁寧で端正な仏様たちが並んでいます。
円空さんが、いかに「きちんとした」仏像彫刻を学んだか、ということが良く分かります。


【「修行の旅」】


展示されていた「法相中宗血脈」はとても面白い資料で、法隆寺で修業した円空さんが、お釈迦様から玄奘三蔵、行基、良弁などの流れを汲んでいることが、1671年に認められたということが分かります。

その法隆寺にも円空さんが彫った大日如来坐像があり、今回展示もされています。

また、円空さんは、修験者でもありました。
岐阜、愛知、三重、吉野と修業を重ねていく中で、仏様だけではなく護法神や役行者も彫っています。

  


中でも、三重県の少林寺から来た護法神像は、木の根に顔を線刻しただけ、にも関わらず、しっかりと円空仏に見えるから不思議です。

そして、NHKで紹介され、見たいと思っていた『大般若経』も展示されていました。
これは円空さんが『大般若経』補修の際に「絵」を加えたものなのですが、丁寧な仏画から、シンプルで大胆、優しくおおらかな仏画へと変わっていく様を見ることが出来ます。



【「神の声を聴きながら」】


円空さんが白山の神様から「円空の彫る像は、仏そのものである」とのお告げを受けたのは、48歳の時。
同じ年、三井寺(園城寺)から、天台密教の流れを汲む僧であることも認められました。

円空仏は、いよいよ自由闊達に、神様も仏様も修験者も、大胆に繊細に、木そのもの、時には木端すら活かし、生き生きと描写していきます。




今回の展覧会で、円空さんの詠んだ和歌を知ることが出来ました。
円空仏には触れてきましたが、そんなに多数の和歌を詠んでいたことは知りませんでした。
紹介されていた和歌は、どれもシンプルで真摯な作風で、円空さんのお人柄がしのばれる作品でした。


【「祈りの森」】


円空仏の中で、最も有名な作品は、「両面宿儺座像」でしょう。



この作品が祀られている千光寺は、救世観音の化身である「両面宿儺(りょうめんすくな)」が開いたとされており、その像を彫ったものです。

『日本書紀』に書かれている「両面宿儺」は、飛騨の国に住み、2つの顔と4本の腕を持つ、人びとに害をなす存在で、朝廷に逆らったため、打ち取られてしまったと描かれるのですが、飛騨や美濃の国では、悪鬼を倒した英雄であり、いくつかの神社の開山であるとされています。
本来、地元の神様であり、それを信仰する人々の集団だったということなのだと考えられます。




ワタリウム美術館さんの旅行で円空仏を見に行って知ったのは、円空仏がいかに身近な存在か、ということでした。
地元で大切に祀られる一方で、病気の時には、平癒祈願のために貸し出されたりもしていたそうです。

この「おびんずる様」も、きっと、たくさんの人々に撫でられ、たくさんの人々を救ってきたのでしょう。
本当に尊い仏様なのだなぁ、と思います。




さて、千光寺さんには多くの円空仏がありますが、秘仏である「歓喜天立像」が、この展覧会で御開帳されていたのには驚きました(写真不可)。

円空さんの彫った「歓喜天立像」は、ゾウの頭を持った歓喜天夫婦が優しく抱き合っている姿で、心を和ませ、穏やかな気持ちにさせてくださる、本当に素晴らしい仏様です。



【「旅の終わり」】

現在、発見されている円空仏は5,400体あまり。
それでもすごい数ですが、円空さんは、生涯12万体の仏様を彫ることを誓ったと言います。

  

木からそのまま掘り出されたかのような、自然なお姿の神様仏様。
優しく気品に満ちた柔和な笑顔、あるいは力強い眼差し。

円空仏は、天才の彫った素晴らしい仏像であると同時に、我々に寄り添い、先を照らしてくれる身近な存在でもあります。

厳しく激しい修業に取組み、仏像の彫刻に文字通り生涯を捧げた円空さん。
作品というものが、多く作れば作るほど、その作者を反映するものだとするならば、自分に厳しく、人に優しいからこそ、これだけの優しい眼差しを持つ仏像を作ることが出来たのだろうなと思うのです。



 開館10周年記念
  円空 ―旅して、彫って、祈って―

 2024年2月2日(金)~ 4月7日(日)